2006年度 Vol36
~ 高川オジさんの小屋つくり日記 ~
「くじら小屋」 できた!
10月12日 オジさん、手伝って
「子どもたちが小屋つくるって言ったら、チョッと手伝ってね」と言うのを、聞くともなく聞いていた。「くじら組が夢中になれることを、何かやらせたい」という出勤前のつぶやきにも気が乗らなかった。
程なく、向陽から「オジさん、ワオーの森に小屋を造りたいの。手伝って!」と電話がかかってきた。”仕組んだな”と思ったが、後で聞いてみたら、子どもたちの方から言い出したのだという。子どもに言われちゃ是非もない。午後から直ぐに下準備を始めた。
まず、どこに建てるか。森の入り口から遠くなく、見晴らしのいいところにしよう、ということで、適当な場所を定めた。笹を刈り、地ならしをして、道もつけなくちゃ。小屋のイメージをラフ・スケッチし、必要な材料の見当をつける。廃材置き場へ行って材料を取り出し、適当な寸法に切断、建設場所へ運び上げる。土台を据える位置を測り、周辺から集めた大小の石を基礎部分に置いて、準備作業は完了。
手順をいちいち細かく記すのは「小屋ができたら、その中で絵本を読んでやったり、紙芝居を見せるだけ。2~3度使ったら壊れるようなのでいいから」などと、随分気軽なことを言ってくれる人に、「そんなもんじゃないんだよ。急斜面に大人と子どもが10人も入るような小屋を建てるとなれば、準備だけでもこれだけのことが必要なんだ」と教えてやりたいからだ。
10月15日 プロの手並み
今日は日曜日。渡会・大友・宮田の父さんたちが来てくれて「本工事」の開始。大友・佐原・宮田・吉川・加賀谷の母さんたちも応援席に陣取ってくれる。
「子どもたちが自分たちの手でつくる」というのが建前だが、構造部分と、屋根や壁の上部など子どもたちの手の届かない箇所は大人の手ですませておこう、という作戦である。子どもたちには、床や壁の材料をノコギリで切り、釘打ちと塗装をやってもらう。それで充分に参加意識と達成感を味わってもらえるだろう。
渡会父さんがテキパキと仕事を進める。さすが、プロ。早い、早い。「設計士」のいい加減なイメージが着実に形になっていく。
昼御飯は、母さんたちが用意をしてくれた。
目に見えて日が短くなった季節、最後は電灯のもとで予定した「大人の工程」を終わる。
母さんたちの差し入れで、宴会が始まる。作業も順調に終わったのでこの上なく楽しい。子どもたちにこんなコトも、あんなコトもしてやりたい、と夢がふくらみ時を忘れる。
10月16日 みんな大工さん
朝、子どもたちの元気な声が山に響く。ノコギリとカナヅチを入れた袋を持って、はやる気持ちを抑えかねているよう。すぐにも、手綱を緩めてやらなければ。
床と壁に張る板をノコギリで切ることから仕事を始める。高川オジさんが鉛筆で切る位置を示してやると、やりたい子が「オレが、オレが」という感じで、順番待ちである。しかし、いざ切り始めてみると、ノコは押しても引いても動かないかわりに、板は動き回ってさっぱり切れてくれない。「切る人と、板を押さえる人と二人組で」と指示をして、ノコの扱い方を指導する。
円花のノコは押せども引けども動かない。手を添えてやる、少し切れた。また動かない。また手を貸す。少しスムースになった。でも、時間がかかりそうだなぁ。悪戦苦闘する直輝。ノコと体の位置関係、ノコと板の角度が悪く、ノコがスムースに動かない。チョッと変えてやると、ウン、切れる、切れる、その調子だ~。
いつもお父さんと一緒にやってるという向陽は、抜群に上手い。
「切れた! まだ切りたい」と、順番を待ちきれずウズウズ。みんなにも切らせてあげようよ。
「切れたー!」という歓声。円花の声だ。あれから、ズーッと切っていたんだ。すごい粘り!
序盤からあまり動こうとしない子もいてチョッと気になり、できるだけ声をかけてみる。
板が切れたら、釘打ちだ。まずは床。これはノコより簡単…、というわけにはいかない。響貴は、何度やっても曲がってしまう。初めは、カナヅチを真下に打ち下ろすことが難しいんだ。がんばれ!
麻妃桜は正にコツコツと打ってる。何て堅実な仕事ぶり!
床の次は、壁。壁のクギ打ちはカナヅチを水平に振らなければならないから、床以上に難しい。おまけに斜面で足場が悪い。
皓大は、いくら打ってもクギが入っていかない。アレ、アレ、カナヅチが軽すぎるよ。「お父さんの、持ってきてる。」「それ、使おうよ」「亡くしたら困るから使わない」「そんな心配しなくていいから」と言って代えさせる。 ホーラ、うまくいくだろう。
チョッと引いていた敢太もコツを飲み込むと俄然やる気を出してきた。
向陽は釘打ちも名人。大人用のカナヅチを力一杯振るって、外れも多いけど、当たれば力とカナヅチの重さでクギがグングンめり込んでいく。
雄太は、終始、元気の良い声を出し続けて、大工の頭領みたいに威勢がいい。
戸を取り付け、小屋に上がるハシゴをつくったところで今日の作業はほぼ終わり。
かめ組が様子を見にやってきた。くじらの子が自慢気な顔で、かめの子みんなを小屋の中へ招じ入れたが、向陽が「摩梨子はダメ」と言う。「何でダメなの? 摩梨子も入る」と気丈に言い張っていた摩梨子も、「摩梨子はダーメ、摩梨子はダーメ」の大合唱に、ワッと泣き出してしまった。
「どうしてそんな意地悪するの?」と聞くと、「くじらの悪口を言ったから」そして、「摩梨子はダーメ、摩梨子はダーメ」の大合唱と摩梨子の号泣。
「あれあれ、みんなで一人の子をいじめて、いいのかな~」と樋詰が大して慌てるでもなく問いかけていると、合唱のボリュームが少し下がり、そのうちに円花が、「みんなの小屋だから、摩梨子も入っていいよ。」と言い出したのを潮に、「摩梨子、入りな」という声が相次ぎ、”強硬阻止派”も何となくバツが悪そう。 摩梨子が涙をぬぐって小屋に入ってしまうと、後はワイワイガヤガヤと何事もなかったような賑やかさ。
OBの谷和希が「手伝わせて」と来ていた。主役はくじらの子と、チャンとわきまえて、後輩の介添えをする場面も。大人になったなぁ。
11月2日 ペンキ塗り
子どもたちの半分は初めて刷毛を手にするという。
雄太「何だかラク書きしているみたい」
円花「絵 描いてるみたいだね」
などと楽しそう。顔にもペンキが飛び散っちゃって。
あれ、壁に塗らないで、自分の服に塗っている子もいるぞ。
11月3日 手すりもついた
高川オジさんと宮田父さんがデッキに手すりをつけ、塗装する。
宮田父さんは、小屋にどんな看板を掲げたらいいか、いろいろ考えているようだ。
11月4日 できた、できた!
小屋の外側の4つの角(出角という)に前回の作業時に塗装しておいた木を打ち付けて、ばんざ~い、完成だ! 2畳分の狭いところに、子どもたちが嬉々として入り込み、高川に絵本を読んでもらって(これが、当初の念願だった)、大満足。
さて、いよいよ「落成祝賀パーティー」
ドラム缶製のピザ焼き窯がデンと据えられて…、出てくるわ、出てくるわ、食べきれないほどのピザが(後で聞いてみると、何と26枚も)。他にも美味しい、美味しいご馳走が沢山。(ちなみに、ピザ窯は、「せいチャン」と呼ばれて親しまれている方からお借りしたもの、暫く使っていいとのこと。眠らせておくのは勿体ないぞ。)
子どもたちが、看板をつくる。宮田父さんが用意してくれた細い木の輪切りを板に貼り付けてクジラをかたどった絵柄。チャンと潮を噴き上げている手の込みよう。
出来上がった看板を小屋に取り付けてついに完成! 何だか雰囲気も出てきた。
11月15日 「除雪はお任せ」
高川オジさんが屋根にトタンを張り付けて、本当に完成。後は、斜面の雪で小屋がズリ落ちないように、除雪をちゃんとやらなければ。
宮田母さんが、向陽を寝かせながら、「雪で小屋がつぶれないかな」とつぶやくと、向陽が「雪が降ったら毎日雪かきに行く」と言ったという。心強い助っ人だ。
11月20日 小屋で弁当を食べる
高川オジさんがワオーの森に行ってみると、くじらとかめの子どもたちが遊びに来ていた。雄太が、「高川オジさん、屋根を張ってくれてありがと~!」みんなも口々に「ありがと~!」の大合唱。 オジさんは嬉しがって、顔がクシャクシャ。
かめの子どもたちが帰り、小屋で紙芝居『つんぶくだるま』を読んでもらったら、子どもたちが言い出して、弁当も小屋で食べることになった。でも、皓大は太い立派な青っぱなを垂らしているし、みんなも寒そうだ。熱いラーメンの出前をしてやろうと思い立ち、急遽つくって届ける。
オジさんの小屋(「山風庵」)で昼寝を終えた子どもたちは、口々に「オジさんありがとう」を言って、帰って行った。
今度は、雪が降りしきる「くじら小屋」で、『ゆきおんな』なんか読んでやったら、雰囲気が出るだろうなぁ。