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かもめニュース

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2007年度〜2011年度

2008年度 vol27

《高川保育日誌》

年長の課題「縄編み」に取り組む

 くじら組の子どもたちは年長になるまでは、一年を通して終日、外遊び中心の生活をしてきました。ままごと、鬼ごっこ、かくれんぼ、草編み、木の実とりなど遊びがいっぱいです。夏は海に浸かりっぱなし、冬はソリ遊びで雪まみれ、暑さも寒さもヘッチャラ。
 このような遊びを通じて心と体を逞しく鍛え、子どもたちは年長組になります。
 年長になると生活の内容が一変します。鍛えられた知力と体力を使い、座ってする作業が取り入れられます。雑巾縫い、七夕の天の川つくりを経て、8月から縄編みにかかりました。

集中力と意欲を培う

 縄編みは、年長が取り組む課題の中では最も難しいものです。編み方の手順・方法を聞き、動作を見て模倣することから始めます。一本の縄を編み上げるためには、手や足の力、背筋・腹筋を総動員しなければなりませんが、精神面での集中力・根気、そして、なによりも意欲が要求されます。
 天の川づくりの経験から、縄編みに取り組むには、指先の器用さや模倣力、人の話に集中する力がまだまだ不足していることがわかったので、日誌を通じて家庭での生活を見直すよう親の援助をお願いしました。園でも、折り紙を使って色々な線や形に折るという経験を積んでみたり、集中しなければ話を始めないなど、縄編みに備えた取り組みをしました。

 いよいよ制作開始。
 まず、6色の布を用意し、その中からそれぞれ好きな色2色を決めます。次に、お気に入りの色の布を縦に裂いて細長い布をつくります。そこから、同色2本、異なる他の色1本(仲間はずれ布)を選び取って縄の素材とするのです。
 最初の難問は、一枚の布を3等分する方法です。
(本当は、6等分させたいのですがチョッと無理そうなので、あらかじめ2等分して置きました)
 「さあ、どうやってわけたらいいのかな?」と問いかけて、子どもたちに考えさせます。子どもたちは毎年違った分け方を見つけるのでそれが楽しみでもあるのですが、今年はなかなか答えが出ません。色々とヒントを与えた末に、「とろけるチーズ」を使って、3つに切り分ける方法を考えてもらいましたがこれもなかなかうまくいきませんでした。日ごろから、果物の切り分けや、遊びやリズムのチーム分けなどを意識的に体験させ、「分ける」「分け合う」という智恵を身につけさせなければ、と感じました。
 何とか布を三つに裂く工程に入ります。布を裂くのは初めての体験。「ワー、破れる、破れる」と大はしゃぎです。裂いた布を丸めて「布だんご」にしてから編み始めます。

問われる模倣力

 まず、三つ編みを実演して見せます。これを見て、自分で編んでいくのですが、この過程で「模
倣力」が問われ、養われます。
例年はこの観察だけでスタートするのですが、今年は戸惑いが感じられたので、同色の布を交差
させるときどちらが先になるか、「仲間はずれ布」をどう編み込むのか、編み上がりをじっくり見させてから始めました。
 「分かった」と言って布を手にしますが、なかなか簡単には編めません。
 苦労しながらも何とか自分で編み上げようと縄
と格闘する子。先に進めず途方に暮れている子。悔しさに涙を見せる子。保育士の援助をあてにして目でサインを送ってくる子。さまざまです。
 そんな中、初めはチョッと戸惑いを見せていた彩葉は、1時間足らずで完成しました。こんなに
短時間で編み上げた子は初めてなので、思わず聞いてしまいました。
「編んだことあるの?」
「いや」
 何か不思議なの? と言いたげな答えが返ってきました。
 倫太郎は、他の子のやることには目もくれず、自分なりに何とかやってみようと、試行錯誤しながらあれこれ縄を組み合わせています。2本だけで編み進み、3本目がときどき思いだしたように入っていたりして、苦労のあとが偲ばれます。困難があっても投げ出さず、自力でやりきろうとする姿勢に感銘を受けました。

きびだんごパワー

 3日目、数人の子が編み上げていく中で、光の目つきが前日までと違ってきました。2時間半ほとんどしゃべらず集中しています。
「少し休んだ方がいいよ」と声を掛けると、
「石田(光の母)が早番で早く帰るから、それまでに編まなけりゃならないし、光、今日 きびだんご食べてきたから絶対あめるんだ。」
 自分に言い聞かせるようにして縄を離しません。
「きびだんご食べてこなかったから、編めないかも知れない」
 光のそばで編んでいた南斗がシュンとして元気がありません。
「大丈夫、今まで編めなかった人は誰もいないから。きびだんごを食べなくても編めるよ」
と励ましたものの、何故きびだんごなのか、よく分かりません。
 後で石田に聞いて、”なるほど” と納得しました。春香山登山のとき、きびだんごを食べて元気をつけ登り切った経験から、きびだんごから編み上げる力をもらえると信じた光は、おねだりして食べてきたのだそうです。一方、きびだんごを食べてこなかった南斗は自信を失いかけていた、というわけです。
 どの子も編み込みに集中してくると、おしゃべりを止めます。
 次に、縄を押さえる指が、右、左、交互にスムースに動くようになります。
 おしゃべりする子が一人減り、二人減りして、みんなが自分の手もとに集中するようになったらもう完成したも同然です。
今年の縄編みを振り返ってみると「きつく締めて編むように」と、それほど要求しなくてもキッチリ編めていた子が多かったのが特徴です。また、編み終わると、すぐほどいて、編み直すという子がほとんどでした。子どもたちから「もっと良いものを」という欲求が感じられました。
 みんなが編み上げるのを待ちに待って、一斉に縄跳びへの挑戦が始まります。
 晴れて跳べる! 堰を切ったように跳びまくります。初めは、縄を引っかけて転んだりしますが、すぐに跳べるようになります。頭や顔は汗でビッショリ。ハー、ハー、息を荒げて跳び続けます。
 縄を編み終えて、子どもたちはチョッと成長したように見えました。

(次号へ続く 髙川 記)